レヴォーグ

タミヤ 1/18 スバル R-2 SS サンビームイエロー

2021.09.26

タミヤ 1/18 スバル R-2 SS サンビームイエロー(1)

今回は、タミヤ 1/18 スバル R-2 SS サンビームイエロー を紹介。

 K12型 スバルR-2 といえば、スバル というブランドの礎を築いた スバル360 の後継車として、1969年8月 に発売。当月の受注台数が 26,000台 を突破して、今なお単月の受注台数の スバル のレコードホルダーに君臨していて、K111 の血統を受け継ぐ軽乗用車としての巷からの期待が大きかったし、実際、1970年代を通じてよく見かけた馴染み深いクルマだ。

 だが、そのスポーティバージョンである、この R-2 SS は全く話が別だった。

 K12型 スバルR-2 の発売から 約半年経過した 1970年3月 に新たにラインナップに加わった SS は、同年9月の R-2シリーズ の年次改良で、リヤクォーターウィンドウ下に、大きな "SS" のオーナメントを追加するなど小変更が施されたにもかかわらず、年を跨いだ 1971年1月 の NEW スバルR-2シリーズ へのマイナーチェンジであえなくカタログ落ちしている。グレードとしてのモデルライフはわずか 8か月 という異例の短さだった。

 当時、それだけ受注が伸び悩んだということなのだろうが、さらに謎なのが、そのわずか8か月後の1971年9月、"ゼブラマスク" に改変された Just New スバルR-2シリーズ への移行の際には、ほぼ同じ内容で "GSS" というグレード名で復活。さらにその1か月後には、フロントにラジエターを持つ水冷エンジンの Lシリーズ まで追加されているのだ。だが、今考えれば、GSS より Lシリーズ こそエンジニアリングの本筋だった。

 当時の 富士重工業 は、登録車として 1300Gシリーズ と R-2 と サンバー しかラインナップを持たず、まだ海外市場への本格展開はしていなかったから、日に日に落ちていく R-2シリーズ の 販売台数に尋常ならぬ危機感を抱いたのは当然だし、そのために、いささかマーケティング的合理性に欠ける矢継ぎ早のマイナーチェンジのおかわりを繰り返さざ得ざる得なかった経緯は、現在ではよく理解できる。

 この時期の スバル の広報誌、"カートピア" の前身 "スバル" で取り上げられていた話題は、年間1万人を超え激増する 交通事故死者数 と、深刻化する 光化学スモッグ などの 公害問題 ばかりで、当時の 富士重工業 の エンジニア は、さらにアメリカで持ち上がった "マスキー法" に端を発して、将来的に厳しくなっていくことは避けられない 排気ガス規制 に対応するために、軽自動車の 「水冷4ストローク化に伴う軽自動車の部品点数の増加による価格上昇は不可避」という "悲観的な" 現実をすでに口にしていた。

 このあたりはリアルタイムで当時をご存じない方はよく分からないと思うのだが、当時の日本が右肩上がりの経済成長の中で、人々がより高性能で、大きく豪華な車を求めて軽自動車から登録車へステップアップしていき、さらに軽自動車に新たに車検を義務付ける動きなどもあり、軽自動車全体の販売台数が大きく縮小に転じていた時代で、その他にも、当時の軽自動車の主流だった2ストロークエンジンでは、俄かにクローズアップされつつあった 大気汚染 などの 公害問題 ---- 排気ガス規制 への対応が困難だった。

 2ストロークエンジンは吸排気バルブを持たないため、どうしても潤滑用エンジンオイルを含んだ有害な未燃焼ガスが発生してしまう。その上、エンジンをシュラウドで覆って、そこにシロッコファンで空気を流して強制空冷する方法では、エンジン本体を均一に冷やすことはできず、燃焼にムラが出やすいために、うまく排気ガス浄化ができなかった。

 そこで、1969年8月、吸気側にリードバルブを追加して吸気側の吹き返しを抑えつつ、アルミ製シリンダーに変更して冷却効率を向上させた EK33型エンジン搭載の K12型 R-2 シリーズ の登場も、1971年10月の 水冷Lシリーズ の登場も、1972年6月 に K12型 R-2 の 2ストロークエンジン のメカニズムを継承しつつ、全車水冷化を果たした K21型 レックス の登場も、1973年10月、タイミングベルトを使って 4ストロークOHC化 された K22型 レックス の登場も、さらに1975年11月、レオーネ同様、排気ポートに空気を供給することで、排気管内 での 排気ガス の酸化を促進し、軽自動車として一番乗りで 昭和51年度排気ガス規制 に適合させた C-K22型 レックスSEEC-T の登場も、確かにそれぞれ意味はあった訳だ。

 自動車という存在が引き起こすネガティブな側面が初めてクローズアップされた暗い時代だったのだ。

タミヤ 1/18 スバル R-2 SS サンビームイエロー(19)

この状況は、EU が2000年代以降、目先の CO2排出量 を削減を優先して、排出権取引で 濡れ手に粟 の利益を享受しつつ、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)、PM(粒子状物質)といった 大気汚染 を引き起こす排気ガス中に含まれる有害物質からは目を背け、メーカーとサプライヤーぐるみで悪質なカルテルを結び、台上試験の時しかまともな排気ガス浄化性能が出ない "デフィートデバイス" を仕込んだ インチキ欠陥車 を 10年以上 にわたり、数千万台も売りまくり、欧州各地で深刻な大気汚染を引き起こしておきながら、その欠陥車を騙して売りつけたお膝元の欧州のユーザーには補償はおろか、満足な改修すら何ら行わずに逃げ回り、最後はアメリカに真相を暴露されて赤っ恥をかかされた上に、莫大な賠償金まで分捕られたので、今さら「やっぱり EV(電気自動車) が一番エコです」と、さらなるみっともない "おためごかし" に出ている現在の状況と少し似ている。

 欧州人には 良心 という観念はないらしい。厚顔無恥にも程がある。

 そもそも、これまでの歴史上、自称 "先進国" たる 欧州 は、常に排気ガス規制には後ろ向きだった。例えば、アメリカや日本で排気ガス規制への対応がすでに終わっていた1970年代以降のフェラーリを買いたい人は、絶対に "カリフォルニア仕様" なんて選ばない。みんな "EC仕様" しか買わないのだ。理由はただ一つ、EC の排気ガス規制なんて、アメリカや日本の排気ガス規制とは比較にならないほどユルユルで "あってないようなもの" だったから、最高出力にしろ、燃費にしろ、ドライバビリティにしろ、排気ガス後処理装置を後付けしてリセッティングが施された "カリフォルニア仕様" では全く話にならないほど悪化しているからだ。

 考えてみればおかしな話だ。「排気ガス規制対応したので性能が低下しました」ではなく、「排気ガス規制に対応した上に性能までアップしました」というのが、あるべきエンジニアリングの本質論だ。これは何も イタリア、あるいは フェラーリ に限った話ではない。現在に至るまで、すべての欧州規制当局、欧州メーカーに共通したスタンスだ。だからこそ、欧州自動車産業は、1970年代から1980年代 の アメリカ市場シェア で壊滅的なダメージを被って、一気に衰退の道を歩まざる得なかったのだから。

 要するに、欧州は端から地道に排気ガス浄化に取り組むつもりなど全くなかったのだ。

 EU圏内への輸入車には、今なお 10% という法外な 関税障壁 を課して市場競争から目を逸らし、真剣に 技術革新 や 品質改善 に取り組まず、したがって日本車に比べて異常に低い品質見切りレベルでお粗末な新車保証しか付けず、メディアを買って鼻白むような提灯記事を書かせながら、すでにボロボロで、今にも破けてなくなりそうな汚い 暖簾 に縋り、詐欺まがいの商売を続けてきた。

 このことは、2013年に書いた 日本模型 1/18 レオーネスイングバック 1.8 4WD や、2014年に書いた ハセガワ 1/24 レガシィ ツーリングワゴンGT のネタでも、鈍い私ですら度々触れてきたことだ 。

 このネタを書いている 2021年9月10日、日本自動車工業会 の 豊田章男会長 の任期が、異例なことだが 2年延長されることが決まった。

 その記者会見の席で豊田氏は「550万人の雇用を抱える自動車産業は日本の人々の雇用と命を預かっている」、「一部の政治家からは全て EV にすればいいという声を聞くが、それは違う」と述べた。

 全くその通りだ。

 私は日本の自動車産業、なかんずく 富士重工業・スバル が送り出してきた数々のクルマたちから、人生を生きる多くの喜びと愉しみをもらってきた。今こそ、豊田会長の意見に心より賛同し、日本の自動車産業への恩返しとして、ささやかながら力添えをしていく意志をここに表明したい。

タミヤ 1/18 スバル R-2 SS サンビームイエロー(2)

のっけから盛大に脱線してしまったが、K12型 スバルR-2 には、スバル360 の 60年後期型 から搭載された EK32型エンジン の 鋳鉄製シリンダー を アルミシリンダー に置き換え、 吸気側リードバルブ を採用して、放熱性 と 吸気充填効率 を向上させた EK33型 を搭載。

 R-2 SS は 1968年10月 に登場した スバル ヤングSS( "スバル360 ヤングSS" ではないのがミソ。これは、当時の新車解説書などの社内資料でも、富士重工業 は一貫して " スバル ヤング " の記述で統一している。) の正統な後継車だ。勘違いしている方も結構多いのだが、SUソレックスキャブレター2連装 だった ヤングSS に対し、R-2 SS は 36PHH型双胴(ツインバレル)式キャブレター1個に変更されている。

 つまり シングルキャブなのだ。

 それに加え、シリンダー内面を ヤングSS 同様 ハードクロームメッキ処理を施し、ピストン変更により、圧縮費をセダン系の 6.5 から 7.5 へ上げ、専用ピストンリングを装備。高出力に対応した排気チャンバーマフラーを採用して、セダン系 の 最高出力 30ps/6500rpm から 36ps/7000rpm にスペックアップされた。

 このように R-2 SS は単なるスポーティグレードに留まらない本格的な変更が施されていた。にもかかわらず、わずか8カ月でカタログ落ちしてしまった事実に、私自身、永年疑問を感じていた。

 なにしろ、週に2、3回、子供用の16インチの自転車を1時間漕いで、行きつけの スバルディーラー に通い続けてサービス風景を日がな一日眺めていることが何よりの愉しみだった 1970年代後半 でさえ、ついにリアルタイムで会うことができなかった唯一の スバル なのである。

 「××の中古車屋に並んでた」、「○○界隈で走っているのを見た」などという話を聞いて駆け付けても、結局、「なんちゃってSS」だったことに落胆し、失望しか味わったことがなかった。

 スーパーカーブーム の時、お小遣い稼ぎのために フェラーリ だの ポルシェ だのの写真を撮るためにアンテナを張り巡らして、あちこちに出向いて追っかけをしていた時でも、結局、R-2 SS にだけは会うことは叶わなかった。

 だから私にとって R-2 SS は、フェラーリ や ポルシェ などより遥かに稀少性が高い、まさに "別格" のクルマなのだ。

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ボディカラーは、無論、最初から決まっていた。サンビームイエローだ。私の 世界一 のクルマ、スバル1300G スポーツセダン。1300Gスポーツ といえば サンビームイエロー、サンビームイエローといえば 1300Gスポーツ。スバリスト にとっては 常識 である。

 K12型 スバル R-2 のプラスチックキットというと、この 1/18 の タミヤ製 を筆頭に、1/18 エーダイグリップ製 スーパーデラックス、1/20 オオタキ製 スーパーデラックス、1/24 クラウン製 SS、1/24 ヤマダ製スーパーデラックス(現在は 童友社 から再発)といったものが存在する。

 このうち、1/24 のふたつは、残念ながら "箸にも棒にも掛からない" 、手許でディスプレイモデルとして愉しむには力不足の残念な内容で、残りのビッグスケールのふたつは、そもそも市場に出回った数が非常に少なく、私自身もリアルタイムで組んだことはおろか出会ったことすらない。だから、過去の生産量から入手しやすい点でも、内容からもこの タミヤ 1/18 こそ、K12型 スバル R-2 のスケールモデルの "決定版" と呼ぶに相応しい。

 この タミヤ製 の 1/18 が発売されたのは 1970年後半で、1960年代中盤までの スロットカーブーム がフェードアウトして、タミヤ が プラモデルメーカーとして初めて手掛けた市販車のフルディティールキットだった。それだけに内容はそれなりに気合が入ったものとなっていて、当時のビッグスケールらしく、ドア、エンジンフード開閉のギミック付きで、ディスプレイキットかモーターライズかを選択できる(ただし、2013年の最新の再発分はモーターライズ部品を省いたディスプレイ専用の内容となっている)。

 この時代の金型技術なので開閉部分の部品精度は推して知るべしだが、室内は熱気抜きのハトメが付いたフロントシート2脚やタコメーター付きの3連メーターフード付きのインストルメントパネル、2本スポークのステアリングホイール、エンジンフードの SSオーナメント、SS専用砲弾型フロントフードミラー などの SS のディティールはきちんと抑えているのだが、

 @ エンジンが セダン系の 30ps仕様
 A ホイールキャップレス
 B SS 標準装備のノーズフィンなし
 C フォグランプの考証不足
 D フロントフード先端スバルマークなし
 E エンジンフードのエアアウトレットルーバーなし
 F SS専用エンジンフードナンバープレート灯なし

 といった部分は、あなたが本気で R-2 SS が欲しいと考えているのなら自分でどうにかしなければならない。

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また、ディティールには直接関係はないが、割と切実な問題として、フロントアクスルの支持剛性が構造上あまりにも低すぎて、素組みではフロント車高がだらしなく下がり過ぎ、ネガティブキャンバーが付いてしまうことと、タイロッドの構造剛性が同じく低いので、ステアリングが気持ちよく切れないことがある。

 このキットをモーターライズで組む方はあまりいらっしゃらないと思うが、モーターライズの場合、両側ステアが絶えずブルブル不安定に振れて、クルマが勝手にあっちこっちに走って行ってしまうのには困ったものだ。

 タイロッドの剛性不足はディスプレイモデルとして組む場合には問題にはならないが、フロントアクスルの支持剛性不足だけは解決しなければならない。

実車はフロントのトーションバーケースからトレーリングアームでフロントホイールを吊り、そのトレーリングアーム内側中ほどをホイールハウス前側に取り付けたオイル式ショックアブソーバーで結んで減衰を発生させる構造になっている。

 ただキットではトレーリングアーム内側にショックアブソーバーを取付けることがスペース的・構造的に厳しいので、私はこのキットを作るときはいつも3oのランナーから削り出したストラットをトレーリングアームのハブ支持部とハブに2oの穴を開けて貫通させ、ホイールハウスやや前よりの位置から車高を調整しつつ組み付けている。

 こうすれば、フロントアクスルの支持剛性の低さに起因する、フロント車高がだらしなく下がり過ぎる問題は解決できる訳だ。

R-2 SS のフロントアクスル
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今回は、切削した部分が分かるように、予めボディをイエローに着色している。

 ボディについては、フロント廻りは左の画像のように、フォグランプ(もどき)取付ダボを削除、フードストラップとバンパー取付用の穴を塞いだ上で、エプロン裏側を1.2oプラ板で裏打ちしてエプロンの裾を内側に巻き込む形状に修正。

 特にボディの下側のコーナー部は R-2 SS の大切なチャームポイントである ノーズフィン との取り合いが生じるので、リアリティを損なわないように慎重な修正が求められる。

 ボディ一体モールドのワイパーアームは削除して、新たに作り直して装着。

随分このキットを手掛けてきて、ドアとボディの取り合いはキットにより個体差が結構あり、新設するドアヒンジとの絡みもあって、一概にどこを修正すべきなのかを指摘するのは不可能だが、少なくともチリだけはしっかりと合わせたい。

 画像ではすでに修正済なのだが、ドア下のプレスラインと連続するクォーターパネルのプレスラインは、最初から高さが合っていないので両側とも修正が必要だ。

 フロントフードからテールランプに連続するキャラクターラインは、ドアを基準に修正をするのだが、フロントフードとフロントフェンダーの取り合い部分は成型がやや曖昧なので、この段階でしっかり修正しておく必要がある。

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サイドのレインドリップモール上部は、金型のパーティングラインが目立つので、ザッと耐水ペーパーで研いでおく。

 問題はテールランプASSYとの取り合いのリヤのコーナー部で、真上から見るとややエッジが効き過ぎているので、丸みを加えるように成型すると、今度はテールランプとの取り合いに違和感が生じてしまうのだ。しかも、ここは削っていくと地がなくなってしまうので、ポリエステルパテで裏打ちしておくと安心だ。

 両側クォーターパネルの裾とエンジンフード下のエプロンとの取り合いは、キットではチリが合わせられているが、実車はホイールアーチの曲線を生かした丸みを持った形状でそもそもチリは合っていない。プラ板を継ぎ足してエプロンより約1.5o程度長めに修正している。

で、キットではエンジンフードにシャープなモールドでエアアウトレットルーバーが刻まれている訳だが、本物の SS は、この部分が丸ごと切り抜かれた専用エンジンフードで、フード裏にはルーバーが切られた導風板があり、表にプラスチック製のカッコいいルーバーが付く構成になっている。

 このエンジンフードとエンジンだけで、このキットがそもそもセダンとして発売する予定で開発を進めていたもので、1970年3月に SS が発売されて慌てて SS に作り直したものである経緯が透けて見えて非常に興味深い。しかし、同じランナーにセダン用のエンジンパーツ と SS専用パーツ が仲良く呉越同舟するパーツ割りからは、そんな事情など微塵も感じられないからまた不思議だ。

 手掛ける度にここは興味を惹かれる部分で、あれこれ仮説を組み立ててみたり、推測してみたりと愉しみは尽きない。もしこのキットを製作するなら、このあたりにもぜひ注目だ。

エンジンは何度も書いてきた通り、残念ながら SS用 ではなく、セダン用だ。

 ただエンジン本機は、空冷エンジンならではのエンジン本体を覆うシュラウドと強制空冷ファンとその上部に突き出したプラグ、ディストリビューター、ダイナモとそれを駆動するプーリー、Vベルト や ギヤボックス、2クロスジョイントのドライブシャフトまで精密に再現されている。

 あえて指摘するなら、SS のシリンダーブロックはセダン用とは全く異なるものなので、シュラウドの排熱口下に、この作例のようにシリンダーブロックの冷却フィンは露出せず、エンジンフードを開けた状態ではエンジンはすべてシュラウドに覆われていることぐらいだろうか。

タミヤ 1/18 スバル R-2 SS(8)

だから、SS専用のソレックスのサイドドラフトタイプの36PHHツインバレルキャブレターと菱形のセカンダリーエアクリーナーボックス、それに接続するプライマリーエアクリーナーボックスは、キットのエアクリーナーボックスの天地左右方向の寸法を約1o程度詰めて、表に入るプレスラインを作り直してやれば、ひとまず SS用エンジン になる。

 その他、エンジンフード上の吸気用ルーバーから強制空冷用シロッコファンにフレッシュエアを導くインダクションボックス、エンジンルーム右舷側にあるオイルタンク、ディストリビューターからエンジンルーム天板の溶接ナットにナット2個で固定するイグナイター、実車ではなかなか芸術的な形状でエンジン裏から左舷側に導かれるチャンバーも再現できれば完璧だ。

タミヤ 1/18 スバル R-2 SS サンビームイエロー(9)

上がシャシー裏の画像。エンジンアンダーカバーとリヤセミトレーリングアームの取り合い部分、つまり、モーターライズの際に、モーターを組み込むギヤボックスの後輪駆動用シャフトを避けるために切り欠かれた部分こそチマチマとプラ板で修正しているが、この実車のフロアパンの形状をディティールはもちろん、奥行きまで忠実に再現したその表情の豊かさを、まずはじっくりと見て、感じて欲しい。そして、静岡市の タミヤ本社 には、今なお、イエローに塗られた K12型 R-2 スーパーデラックス が大切に保存されている事実を知って欲しい。

 K12型 スバルR-2 をよくご存じの方なら、このシャシーを見ただけで、企業としての黎明期に タミヤ がこのキットに注ぎ込んだ深い情熱と技術をひしひしと感じることができるはずだ。

 そう、巷で何も知らないニワカが "散々マイナーチェンジを繰り返しながら、2年で消えた失敗作" と断罪する 軽乗用車 "ごとき" にである。

 このリアリティこそ、ビッグスケールキットを組む醍醐味そのものと言えるが、同じビッグスケールである 1/18 の エーダイグリップ製、1/20 の オオタキ製 にこんなリアリティは望むべくもない。タミヤ でなければ、私たちはこの驚愕のクオリティで K12型 スバル R-2 SS 出会うことはなかったのだ。

 私は改めて タミヤ に心から深く感謝したい。

 世に出回る製品の多くは、時の流れに堪えられず淘汰され、やがて表舞台から消えていく。もちろん 例の欧州メーカーが、最初からユーザーと各国規制機関を裏切り、欺くために生み出し、売りまくった インチキ欠陥車 など言語道断、論外だ。自動車メーカーを名乗る資格はない。イカサマしかできないのなら、とっとと自動車製造から撤退しろ。

 K111 から K12、そして K21 という スバル の軽乗用車の系譜を振り返る時、自動車に限らずすべての製品で、何が変わり、何が変わらなかったのか。そして 残った技術 が今にどう生きているのかを検証することは決して無意味なことではない。

 むしろ、その 残った技術 がどう生まれ、なぜ今まで生き残ってくることができたのか、その紆余曲折をあえて知ることにこそ、企業が進むべき未来を切り開く 何か を知る重要な 鍵 が隠されているのだ。

タミヤ 1/18 スバル R-2 SS サンビームイエロー(10)

さあ、インテリアに移ろう。インストルメントパネルも実車を忠実に再現している。

 セダンと SS では、違いはメーター部分だけなのだが、できればセンターベンチレーショングリル中央のメッキの六連星オーナメントはモールドで欲しかった気もするが、今では、プライベーターでもメッキデカールでそれを再現することは難しくない。同じメッキデカールは、K12型 スバルR-2 の素っ気ないインストルメントパネルにささやかな華を添えるラジオ部の取り巻きと、ステアリングセンターの "SS" オーナメントにも使っている。

 メーターは実はモールドがあり、よく見ると、タコメーターが4000rpmあたりを指し示している(笑)。こういった作り手の遊び心を感じたりするのもモデリングの愉しみのひとつだ。とはいえ、今回は実車のメーターからデータを作成したデカールを使用するので、そのモールドを削除するためにメーターをドリルでくり抜いて裏板を当ててメーター底部を作り出し、そこにデカールを貼付。さらにその上にクリアレジンを乗せることでメーターガラスを再現している。

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このハトメの熱気抜きが付いたフロントシートも、1970年代初頭のスポーティモデルには欠かせないディティールだ。

 このキットのフロントシートは、この時代のビッグスケールキットらしく、座面とバックレストが別パーツで、座面両サイドにメッキパーツのヒンジを設けて、リクライニング可能としているところはしみじみ時代を感じる。

 このハトメは、R-2 SS のインテリアの重要なアクセントなので、しっかりとメッキデカールを作成して、鈍い輝きを放つハトメの質感を再現している。

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R-2 SS にこの3連メーターを組み込んだウッドパネルのフロアコンソールは欠かせない装備だ。

 だが、実はこれは R-2 SS でも標準装備ではなく、あくまでもOPパーツだった。

 実物のウッドパネルは少し白っちゃけたプリントの木目が少し興醒めでなので、少し赤みを加えた木目をシフトノブ、クロームのシフトレバーシャフト、ビニールレザーのシフトブーツをコーディネイト。

 電流、電圧、時計の各メーターも実車からデータを起こしたデカールを貼付。クリアレジンでガラスを再現。この時代のスポーツモデルならではの 味 だ。

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ちなみにキットのフロアマットのモールドは実車を反映していないので、実車のフロアを覆うダークブラウンの難燃ビニール製マットを近似色の0.3oシボ付きカッティングシートを丁寧に貼り込むことで再現。

 足元のアルミアクセルペダルを再現したABCペダルを取り付ければ、R-2 SS の "洗練された男くささ" が横溢するインテリアの完成である。

タミヤ 1/18 スバル R-2 SS(15)

今回の製作では、ドアヒンジとエンジンフードヒンジは新製している。

 エンジンフードはキットでは本来脱着式なので、手前味噌だが、きちんとヒンジを取付けたことは、このキットではエポックメイキングが出来事だと思う。

 一方、ドアヒンジについては、このキットを手掛けたことのあるモデラーならご存じの通り、全く精度が出ていないのでガタつく上に閉めた時の建て付けも最悪で、ちょっとした衝撃でガタンとドアが落ちてしまうさまは、完成してももの悲しさを誘う、寂しいものだった。

 そこで今回は、ドアヒンジを上下2つのヒンジで支える方式に変更して、構成部品の精度もしっかり出し、ドア側にスチールプレートを仕込み、ボディ側に小型のネオジム磁石を仕込んで、カチリと節度感をもって最後まで閉まって、クローズ状態が保持できるように変更している。

 シャシー裏も、実車通りのプレスされたビードや、エンジンのアンダーカバー、フューエルタンク、パーキングブレーキワイヤー固定ブラケット、6つの水抜き用グロメット、前後セミトレーリングアーム式サスペンションなど見所は尽きない。ぜひ注目して欲しい。

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さて、エクステリアのディティールだが、ホイールキャップをどう作るのか興味がある方も多いだろう。なんといってもこのキットでリアリティを削ぐ最大のポイントであるにも関わらず、自作しようにも、球面に四つ葉の複雑なプレスラインを刻む必要があるからだ。

 ホイールキャップは最終的に元型を作って製作しているのだが、その元型に辿り着くまでに、クラウン製 1/24 のホイールキャップを型取りして複製、それをベースに元型を製作することで、簡単…とはいえないまでも、一から元型を製作するよりは容易にこのホイールキャップを作ることができるので、もしクラウン製のキットをお持ちの方はお試し頂きたい。

 エンジンフードのナンバープレート灯は無垢のプラスチック塊から削り出し、そして、R-2 SS のディティールで一番の見せ所、エンジンフードのエアアウトレットルーバーは、2×8o程度に切り出した 0.5oプラ板を、ルーバーの数に合わせて23枚作り、一旦、流し込みセメントで軽く繋ぎ合わせてインゴットを作って、金ヤスリで断面形状を削り出した後、再度1枚1枚切り離して、エンジンフードルーバー中間に横方向に接着した1本の横桟をガイドにルーバーに1枚1枚接着している。

 色々とやり方は考えてみたのだが、結局、これ以外にこれといった名案は思い浮かばない。ここがこのキット最大の難関になるだろう。なにしろ、これをやらないことには、ノーズフィンを造ろうが、ホイールキャップを造ろうが、所詮「なんちゃってSS」にしかならないからだ。

 その他、前後マッドフラップは、前が旧字体の「SUBARU」の白抜き、後ろが「SUBARU R-2」のカタログロゴの白抜き、Aピラーのラジオアンテナ、リヤウィンドウ下のステッカーなど、当時のラインオフの仕上げに徹底的にこだわっている。

タミヤ 1/18 スバル R-2 SS(18)

結局、あの スーパーカーブーム の時代、ランボルギーニ や フェラーリ、ポルシェ に逢うより R-2 SS に出逢うことの方が難しかったがゆえに、例のスーパーカー群より R-2 SS への強烈な憧れを抱いた私の "夢" が叶ったのは、2000年代に入ってからだった。

 アドニスホワイト の、時を超え、見事なコンクールコンディションに保たれたその一台を拝見させて頂く機会を得た時、その佇まいの神々しさに、私は溢れる涙と感情に思わず手を合わせて拝んだ。

 そう、子供の頃から、ずっとずっと、僕は君に逢いたかった…。

 R-2 SS との短い邂逅を終え、オーナーに心からの謝意を伝え、BC5 に乗り込み、ルームミラーの中でこちらを見ている R-2 SS に後ろ髪を引かれながら、私はゆっくりと走り出した。

 これまでの人生の中でどうしても叶わなかった夢を、ついに叶えることができた。満足だった。

 永い人生の中で "満足" だと感じることが、一体どれくらいあるだろうか。その数が多ければ多いほど、人は 幸せ になれるのだ。


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